ジョバンニ中島の それでも生きていこうか

うまく生きては来られなかった。馬鹿はやったけれど、ズルいことはしなかった。まだしばらくの間、残された時間がある。希望を抱けるような有様ではないが、それでも生きていこうか。

2019-01-01から1年間の記事一覧

蟻は這う 3

山道を登る歩き方には、コツがある。 説明が難しいが、膝を前に持ち上げるのではなくて、逆の脚の膝の裏をぴんと突っ張るようにすると、楽なのだ。自然、男性らしからぬ、尻を左右に振る歩き方になるが、周りの先輩方は皆そうしていた。それを真似することに…

癒える

人間というのは、強くない。 体や心の悲鳴を無視していると、必ずどこかに歪みが溜まる。程度が過ぎるとひどいことになる。 ある日突然、起き上がれなくなったことがある。 脊髄を駆け上る痺れに襲われ身動きが取れなくなったこともある。 人と会話を交わす…

蟻は這う 2

坂というのは不思議なものだ。 そこに身を置いている時に、その角度を体感できる人というのは少ない。例えば、人が頭で理解している45度というのは直角の壁の半分の傾きだ。でもそれに向き合ったときに感じる傾斜は、上り下りいずれでも遥かに急なものにな…

蟻は這う

「…この業務は東日本大震災の緊急雇用対策として発注されたものです。既に研修は受けていただきましたが、未経験の皆さんは指導員の指示を守って、事故の無いよう作業にあたってください」 11月を過ぎれば東北はどこも冷える。しかも山の上でやるのだとい…

青みがかった暗がりの中、つくりものの星空が瞬いている。 「さわっていいよ」 女はくすりと笑って、並んで座った私の手を自分の太ももにのせた。効かせすぎの空調のせいで、タイトスカートからのびる素のままの肌はひんやりと冷たかった。 飲み屋の女の割に…

かげろう

S市の有名な繁華街の入り口に、くろだという焼き鳥屋がある。今の世のネット検索で調べてまともに出てくるのか、どうか。やってみたことはない。 愛想笑いのやりかただけは一応知っているというような大将と、黄ばんだこけしのような女将、そしておそらく少…

蜘蛛の糸

「いつになったら収まりますかね。この揺れ」 若い部下が青白い顔をして、俄かに冬に逆戻りしたようなどす黒い雲を見上げた。家族に電話が通じない、と呟いた。 私は生返事をしながら、ふわふわ波打つように感じる足元のアスファルトを見つめていた。平成23…

ミミズの夢

人生にはいろいろあるさ、うまくいく事ばかりじゃないと、それこそ数えきれないくらいの先人が言い遺して来ただろうし、もしこれを読んでくれている人がいるとするならば、そのあなたもそう感じたことが幾度かはあるのかもしれない。 でも、うまくいかない事…