ジョバンニ中島の それでも生きていこうか

うまく生きては来られなかった。馬鹿はやったけれど、ズルいことはしなかった。まだしばらくの間、残された時間がある。希望を抱けるような有様ではないが、それでも生きていこうか。

蟻は這う 3

山道を登る歩き方には、コツがある。

説明が難しいが、膝を前に持ち上げるのではなくて、逆の脚の膝の裏をぴんと突っ張るようにすると、楽なのだ。自然、男性らしからぬ、尻を左右に振る歩き方になるが、周りの先輩方は皆そうしていた。それを真似することに気付いてから、少しづつ息が続くようになった。

 

毎朝、山道を登る。気温は低く、吐き出す息がまるで雲のようだ。泥が混ざり汚れた雪の筋を残しながら、私たちは登る。

初日は、森林組合の人が道脇の若木を鉈で切り、杖にして渡してくれた。有難く使わせてもらったが、数日後には要らなくなった。

幾重にも重ねていた服装は、Tシャツ一枚の上にウィンドブレーカーという格好に落ち着いた。寒くはなかった。汗で湿ったTシャツは、ウィンドブレーカーの胸をはだけるとじきに乾いた。体の中から無限に熱が湧いてくる気がした。

 

作業をする現場は、山道沿いにあることはほとんどない。だから最後はきつい崖を登っていく。カモシカよろしく崖を斜めに、また切り返して斜めに、ジグザグに登る。

スパイク付きの長靴を履いてはいるが、雪が乗った枯葉は滑る。肩には鋭い丸刃が付いた刈払機を担いでいる。途中、斜面に立つ杉の樹につかまると、何とも言えない安堵に包まれる。名残惜しく手を放し、また登る。

 

辿り着いた現場で行うのは除伐作業。刈払機で杉林に生えた笹などの下草や、灌木などを切り飛ばすのだ。前述もしたように、通常冬にやることではない。冬は草が伸びていないし、第一雪に埋もれて見えないことも多い。

 

ある現場はほぼ山頂近くにあった。

風に削り取られたようなむき出しの山頂に向かう最後の方は、ジグザグ登りではなく、地面にしがみついて這うことになった。

震災の前、サラリーマン暮らしに慣れきっていた頃の私には、信じられなかっただろう状況に、思わず苦笑が漏れた。

それでも生きている。そう思った。